介護業界における人材不足の深刻さが増す中、外国人材の活用は今や不可欠な取り組みとなりつつあります。これまでの「技能実習制度」や「特定技能制度」は、制度的な限界や課題を抱えながらも、多くの介護施設で人材確保の手段として活用されてきました。こうした中、2027年に導入が予定されている「育成就労制度」は、これら既存制度の課題を抜本的に見直し、外国人がより安心して日本で就労・定着できることを目的に設計された全く新しい制度です。
この記事では、育成就労制度の基本的な概要から、技能実習制度や特定技能制度との違い、制度導入の背景、介護現場での具体的なメリット、今後の対応における注意点まで、介護施設の経営者や人事担当者に向けて網羅的に解説します。
育成就労制度とは?
育成就労制度は、政府が「技能実習制度の廃止」を明言したうえで、代替制度として新たに創設する外国人向け就労制度です。この制度では、外国人労働者の受け入れを「人材育成」と位置づけ、初期の育成フェーズと本格的な就労フェーズの2段階に分けて運用されます。
育成段階では、基礎的な日本語教育・職業訓練を受けながら、実務を通じてスキルを磨く期間とされ、その後、一定の要件を満たした場合に本格的な雇用段階に移行します。これにより、外国人材の育成と定着、さらに中長期的な戦力化が見込まれています。制度の施行は2027年が予定されています。
育成就労制度と技能実習制度の違い
- 目的の明確化:技能実習は「技術移転」が名目であったのに対し、育成就労制度は「国内人材確保」を明示的な目的としています。
- 転職の自由:技能実習制度では原則的に転職が禁じられていましたが、育成就労制度では不当な労働環境からの脱出や職場変更が認められる方向で設計されています。
- 支援体制の強化:受け入れ企業には、日本語教育・業務教育・生活支援などの包括的なサポート体制が義務付けられます。
これにより、介護施設としても「人材の質」と「職場定着率」の両面において恩恵を受けられる可能性が高まります。
育成就労制度の導入背景
技能実習制度は1993年に制度化された当初、発展途上国への技術移転を目的としていましたが、現実には多くの分野で安価な労働力として利用されてきました。その結果、過重労働・賃金未払い・パワハラ・職場での孤立などの問題が頻発し、国際社会からの批判も集まっていました。
特に介護分野では、日本語能力や業務理解が求められる中、十分な教育やサポートが受けられないまま従事するケースがあり、本人と施設双方にとって大きなリスクとなっていました。こうした課題を踏まえ、国は育成就労制度を創設し、人材の質・職場の質・制度の信頼性を高めようとしています。
介護業界における育成就労のメリット
① 長期雇用が可能
育成就労制度では、最長で5年間の在留が認められ、さらに「特定技能1号・2号」や「在留資格:介護」への移行も可能です。これにより、介護事業者は単なる短期労働力ではなく、中長期にわたる人材として計画的な採用・育成が可能となります。
② 職場環境の自由度向上
育成就労制度は、外国人が自身の意思で適切な職場を選び直すことができる制度設計になっています。これにより、劣悪な労働環境を原因とする離職や失踪を防ぎ、健全な就労環境が広がることが期待されます。
③ 教育・サポートの義務化
制度では受け入れ機関に対し、日本語・専門スキル・生活支援に関する教育体制を義務づけています。特に介護現場では、利用者との円滑なコミュニケーションや事故防止の観点からも、日本語教育や文化理解の支援が不可欠となっており、これを制度として担保するのは大きな意義があります。
育成就労制度導入に向けた注意点
① 移行期の制度併用に関する計画
制度の本格施行は2027年とされていますが、それまでの期間は「技能実習」や「特定技能」を併用する必要があります。このため、将来を見据えた受け入れ計画と教育体制の整備を段階的に行うことが求められます。
② 制度内容の変更リスク
現在も制度詳細は調整段階にあり、受け入れ対象の国・地域、言語要件、企業の責任範囲などが変更される可能性があります。厚生労働省や出入国在留管理庁からの最新情報を常に確認することが不可欠です。
まとめ
育成就労制度は、介護人材の確保と育成における新たな基盤となることが期待される制度です。これまでの技能実習制度ではカバーしきれなかった点を制度設計に反映し、「外国人材が安心して働き続けられる日本」を実現しようとしています。
介護施設がこの制度を活用することで、長期的な人材戦略が可能になり、利用者に対しても安定したサービス提供が実現します。今後も法令・制度の動向を注視しながら、計画的な導入準備を進めていくことが、介護業界全体の成長につながる鍵となるでしょう。