特別養護老人ホーム(特養)は、介護度が高く、24時間のケアが必要な高齢者が入所する施設です。慢性的な人材不足が続く中、外国人介護人材の活用が現場の切実な課題を解決する一手として注目されています。中でも「EPA(経済連携協定)」による人材受け入れ制度は、質の高い介護人材を安定的に確保できる仕組みとして、特養との親和性が高いとされています。
1. EPA制度の概要
EPA(Economic Partnership Agreement)は、日本がフィリピン・インドネシア・ベトナムと締結した経済連携協定に基づき、各国から介護福祉士候補者を受け入れる制度です。候補者は来日前に日本語の事前研修(半年程度)を受講し、来日後は介護施設で実際に働きながら日本語能力と介護実務を高め、最終的に介護福祉士国家試験の合格を目指します。
この国家試験に合格した場合は、在留資格「介護」に移行し、無期限で介護職として日本国内で就労できます。試験に合格できなかった場合でも、3回まで受験のチャンスが与えられており、制度全体として長期雇用・育成型の枠組みを持つ点が大きな特徴です。
2. 特養でEPA人材が求められる理由
2‑1. 医療・介護の連携が求められる高度な現場
特養では、排せつ介助・入浴介助・食事介助に加えて、終末期ケアや医療との連携も求められる複雑な現場です。そのため、高い基礎力と日本語能力を備えたEPA人材は、他制度の外国人材と比較して特養との相性が良いといえます。
EPA候補者は、受け入れ前から一定水準の日本語教育を受け、来日後も国家試験合格を見据えたOJTに取り組むため、現場での指示理解や報連相がしっかりでき、スムーズに業務に慣れていける傾向があります。
2‑2. 継続的な雇用と定着のしやすさ
EPA制度は、国家資格取得を前提とした中長期的な人材育成を目的としており、雇用の継続性が高い点が特養にとって大きなメリットです。
技能実習制度のように「3年間で帰国」が前提ではなく、国家資格を取得したEPA人材は定着率が高く、介護の現場で中核的な役割を担うまで育てていくことが可能です。
3. 特養での活用事例
関西地方の特別養護老人ホームでは、フィリピン出身のEPA候補者2名を受け入れ。来日後は早期に夜勤にも対応し、日本人職員とチームを組みながら介護業務を実践。国家試験にも1人は合格し、もう1人も翌年の合格に向けて挑戦中です。
施設としては、現地での面談を通じたミスマッチ防止や、来日後の生活支援体制を整備したことにより、職員・利用者双方に良い影響をもたらしています。
4. 導入までのステップ
- 厚生労働省を通じた受け入れ枠申請(指定施設要件の確認)
- 送り出し国の政府・支援団体との調整・マッチング
- 候補者の選定・事前面談
- 来日前の日本語・介護研修(約6か月)
- 就労ビザ取得と来日手配
- 施設内OJT・国家試験対策支援
- 試験合格後、在留資格「介護」へ移行
5. 特養がEPA人材を活用するメリット
- 長期的な人材確保:資格取得を前提とする制度で、将来の中核人材として育成可能
- 高い日本語能力:初期段階から日本語教育が施されており、利用者とのコミュニケーションも円滑
- 高モチベーション:国家試験合格を目指す意欲の高い人材が多く、現場の活性化にもつながる
6. 注意点・リスクマネジメント
- 試験不合格時の対応:3回の試験チャンスに合格できなければ帰国となるため、早期からの試験対策が重要
- 生活支援の必要性:住居や生活相談、文化的な違いへの対応を含めた支援体制の構築が不可欠
- 職場の受け入れ態勢:日本人職員との連携・理解促進を図るための研修やフォローも必要
まとめ
特別養護老人ホームにおいて、EPA人材の受け入れは、慢性的な人材不足への対策として非常に効果的な手段です。国家試験を通じた資格取得による定着性、介護知識と日本語能力の高さ、制度全体の信頼性など、あらゆる面で魅力があり、導入する施設が年々増えています。
ただし、制度の理解と適切な受け入れ体制があってこそ、そのメリットを最大化できます。特養でのEPA人材導入は、単なる労働力確保ではなく、施設全体のサービス品質向上と、多文化共生社会への第一歩でもあります。