深刻な人材不足に直面する日本の介護業界において、「訪問介護」はとくに人材確保が困難な分野のひとつです。そんな中、質の高い外国人介護人材を中長期的に育成できる制度として注目を集めているのが「EPA(経済連携協定)」です。これまで施設介護中心だったEPA制度ですが、2024年の制度見直しにより、訪問介護でもEPA人材の活用が可能となり、在宅介護分野における人材確保の選択肢が広がりました。
1. EPA制度とは?
EPA(Economic Partnership Agreement)とは、日本とフィリピン・インドネシア・ベトナムとの経済連携協定に基づいて、これらの国々から介護福祉士候補者を受け入れる制度です。候補者は来日前に約6か月間の日本語・介護研修を受け、来日後は介護施設などでOJT(現場研修)を受けながら国家試験合格を目指します。合格後は、在留資格「介護」に移行し、日本で長期的に働くことが可能です。国と国との取り決めによって制度運用されているため、制度的な信頼性や透明性が高いのも特長です。
2. 訪問介護でのEPA人材活用が可能に
2024年3月29日に厚生労働省が発表した制度改正により、訪問介護事業所でもEPA人材の受け入れが認められるようになりました。これにより、これまで施設介護に限定されていたEPA人材の活用先が広がり、在宅介護分野での人材不足解消に向けた新たな選択肢として注目されています。
参考:厚生労働省:外国人介護人材の訪問系サービスへの就労について
3. 訪問介護にEPA人材が適している理由
3‑1. 国家資格を前提とした高い知識・技能
EPA制度の最大の特長は、介護福祉士国家資格の取得を前提にした育成型の仕組みです。そのため、受け入れた人材は確かな知識と技術を有しており、訪問介護で求められる「一人で判断しながら動ける力」や「高いホスピタリティ力」を備えています。
3‑2. 日本語能力の高さ
EPA候補者は来日前から日本語研修を受け、来日後も継続的な指導を受けています。多くは日本語能力試験(JLPT)のN3以上を取得しており、書類作成・報告・相談など、日本人職員との業務連携もスムーズに進められます。
4. 訪問介護でのEPA人材導入のステップ
- 厚生労働省に指定された受け入れ施設の登録
- 送り出し国(フィリピン・インドネシア・ベトナム)とのマッチング
- 候補者の面談・選考
- 日本語および介護知識の事前研修
- 在留資格取得・来日
- 訪問介護事業所でのOJTと国家試験対策
- 国家試験合格後に在留資格「介護」へ移行
5. 導入事例:EPA人材が訪問介護で活躍
中部地方のある訪問介護事業所では、EPA制度を活用してフィリピン人介護福祉士候補者を受け入れました。施設介護での研修を経て国家試験に合格し、現在は地域の訪問介護業務を担当しています。利用者やご家族からの評判も高く、外国人だからといった不安は一切ないとのこと。職員間のコミュニケーションも円滑で、長期的な人材戦略の成功事例として注目されています。
6. 訪問介護におけるEPA活用のメリット
- 高品質な介護提供:国家試験合格者のため、現場でも即戦力
- 離職リスクが低い:制度設計上、長期雇用が前提
- 行政連携で安心:国際的枠組みに基づくため、トラブルが少ない
7. 導入にあたっての注意点
- 制度理解の徹底:受け入れ事業者はEPA制度の手続きに精通する必要があります
- 生活面での支援:住宅、交通、文化的背景への配慮が不可欠
- 組織内コミュニケーション:多文化共生への意識と体制づくりが必要です
まとめ
訪問介護は、高度な専門性と信頼関係が求められる分野です。EPA制度を活用することで、制度に裏付けされたスキルと日本語能力を持つ外国人材を安定的に確保でき、現場の質向上に大きく貢献します。2024年の制度改正により訪問介護での受け入れが正式に可能になった今こそ、導入のタイミングとして最適です。
貴事業所の人材戦略として、EPA人材の活用をぜひご検討ください。